普通のお話No15  セックスと接待
              「ASKA覚醒剤逮捕で思い出したこと」 

        

先日、ミュージシャンのASKAさんが覚醒剤不法所持で逮捕されましたが、ASKAさんの曲・歌声が好きだっただけに、僕にとってはちょっとショッキングな出来事でした。ミュジシャンが曲作りに行き詰り、クスリに手を出すという話をよく聞きますが、ASKAさんの場合は、それだけではない、何か胡散臭さを感じてしまいます。その胡散臭さの原因はその裏に見え隠れするセックスにあると思います。
 僕のように禁煙を何度も繰り返しその度に挫折している人間が、麻薬の依存症の方をとやかく言える立場にないことは分かっているのですが、ASKAさんの場合は麻薬とセックスという、より依存性の高い、しかも禁断の領域に一歩踏み込んだことを思うと、煙草でさえ止められない僕が、ASKAさんを非難したとしても許されると思うのです。
 依存症と言えば、僕の場合、煙草のみならず、かつてはアルコールの重度の依存症で、体を壊して初めてアルコールのそれから解放されたのだし、煙草にしても、アルコールと同様、愕然とするような医師の宣告でもなければ、止められないと思っています。つまり、体を害していると意識しているにもかかわらず止められないのですから、依存症を克服するのは並大抵のことではないということです。

 ところで、話は変わりますが、皆さんはセックスに関して、次のような仮説があるのをご存知でしょうか? それは、
「他の動物と違い、人間に特定の繁殖期(さかり)がないのは、過去のある時期、人間だけがセックスに対する依存症に陥ったから」
というものです。

  例えば人間に近いサルを思い浮かべてください。繁殖期になると、メスザルのお尻が艶めかしく色づき特有の臭いを発します。この臭いに突き動かされ、オス達はボスザルに戦いを挑みます。何故ならボスザルのみがセックスを独占できるからです。これはセックスの依存症などではなく自らの子孫を残したいという本能に基づきます。
 人間は、多少の例外はあるものの、このボスザルの制度も手放したようですが、これに関しても非常に興味深い仮説が存在します。それは、
「人間は遠い過去に、エデンの園(果実がたわわに実る楽園)を追われ、厳しい環境へと放り出された。その環境の中、群れの生存を確保するために、オスは協力して獲物を捕獲しなければならず、セックスも平等にせざるをえなかった」
というものです。
 つまり、ボスが、働きに応じて他のオスにメスを分け与えた? と言うのは、あまりにオス目線で、実際は厳しい環境での生存適応能力の多様性を求め、メス達がボス以外のオス達の精子を求めたのかもしれません。いずれにせよ、これらの説は仮説にすぎず、真偽のほどはわかりませんが、いかにもありそうに思えてくるところが支持される所以なのでしょう。
 もし、このセックスの依存症仮説が正しいとするなら、ASKAさんはトンデモナイ世界、それこそいくら足掻いても決して這い上がれないに蟻地獄に陥っていたことになり、その罠に嵌ってしまったASKAさんは逆に気の毒と言うほかありません。依存症の観点からみれば、第一に麻薬類、次いでセックスという順位は不動のものであり、最強の組み合わせと言えるからです。

 さて、今回、副題で「ASKA覚醒剤逮捕で思い出したこと」と書きましたが、何を思い出したのかお話しします。その前に一つお断りしておきますが、このお話の中で、かなり下品な言葉が飛び交いますが、これらの言葉は僕自身の言葉ではなく、僕の特殊な経験のなかで実際に耳にした言葉をそのまま書いているのだということをご理解のうえ、お読み下さい。

                  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 僕の5度目の転職先は建設コンサルタント業界でした。この建設コンサルタント会社というのは、公共工事における設計及び施工管理だけを請け負います。と言うのは、国なり地方自治体が公共工事を発注する場合、設計と工事を分離することにより透明性を確保することが建前になっいるからです。従って、工事はゼネコンに発注します。
 当然、どちらの業界も発注者に対する接待は欠かせないものですが、設計などと言うのは、コストの殆どが人件費ですから利幅はそう多くはありません。ですから接待費はごくごく少なく、供応すると言っても可愛いもので、せいぜい酒席を設けるとか、ゴルフに接待するという程度でした。
 これに比してゼネコンの場合、利幅も裏金も潤沢ですから接待費も莫大で、酒、美食、女、金、ゴルフとあらゆる男の欲望をくすぐるものが用意されています。そしてその接待は、建設コンサルも同様ですが、受注に至る過程、施工途中、そして工事終了後も続きます。何故なら、営業マンは、お役人との個人的な人間関係を築くことが求められているからです。

 そんなゼネコンの接待席に同席するという奇異な機会が巡ってきたのは、僕が40代半ば、勤務していた建設コンサルタント会社の営業課長の時です。そして、その奇異な機会を設定したのは東京近郊の、と或る県の担当営業マンで、仮にその名前を石川としておきましょう。
 石川はその県の出身で、叔父が地場の大手ゼネコンの専務を務めており、この叔父の情報により、それなりの実績をあげていました。この地場の大手ゼネコンの専務の名を渡辺ということで、お話を進めます。

 ある時のことです、この石川が、妙な話を僕に持ち込んできたのです。その話というのが、石川はかねてより叔父である渡辺に、後学のために接待の席に同席させて欲しいと懇願していたのですが、その許しが出たので、僕にも同席して欲しいと言うのです。僕も興味がありましたので、即了解して、その日を迎えました。

 酒席は、枕芸者で有名な温泉で、そのなかでも一級のホテル。部屋は純和風の落ち着いた雰囲気の10畳間。大きめのテーブルに座椅子が6卓。接待側は3人、主賓が一人ですから、二つ余計です。
 また、接待相手は県の技官OBの吉岡(仮名)。この技官という役職は、県職員のうち技術系職員のトップで、吉岡技官は定年前、県の出先機関に出向し、そこの理事長に収まっています。とにかく、県においても未だ影響力のある大物です。

 約束の時間の30分前ホテルに着き、フロントで渡辺の名前を言うと、仲居に導かれその部屋へと案内されました。渡辺は既に浴衣・ 羽織姿でくつろいでいてギロリと値踏みするような鋭い視線を僕に向けます。つかさざ、胸のポケットから名刺入れを取り出し挨拶しようと近づいて行くと、
「甥っ子の上司の安藤だろ? 名刺なんて貰ったって、クソの役にも立たねえ。吉岡技官が来る前に、二人とも着替えておけ」
と、取り付く島もなく、二人してあたふたと隣の部屋で着替え、すぐさまとって返して渡辺の正面に正座して挨拶の口上を述べようとすれば、
「そこは主賓が座る上座だろう。今時の若いもんはそんな常識もないのか。二人とも俺の隣に来い」
と一喝され、へへー、とばかり渡辺の隣に回り込み、土下座するようにご挨拶を済ませました。そして、営業とは、はたまた接待とは、という蘊蓄(うんちく)を、吉岡技官が到着するまで聞かされたのです(渡辺は、何故か「理事長」ではなく「技官」という呼び方に終始します)。

 東大卒、温厚篤実、気が小さく、真面目一辺倒。この絵にかいたような優等生をいかに籠絡したかという話は、そこまでやるのかという驚きの連続です。そして一度籠絡してしまえば、その目眩く快楽の虜になり(依存症)、絶対に逃れられないのだそうです。
 そして、渡辺がここぞとばかり声を顰め、武芸者が一子相伝の奥義を息子に伝えるごとく、接待の神髄を僕らに厳かに囁いたのです。
「いいか、相手の懐に飛び込み、そーっと手を下半身に忍び込ませ、ぎゅっと金玉を握る。いいか、ここからが肝心なことだが、その握った金玉を決して放さない。握り続ける。これが接待の神髄だ」

 吉岡技官が到着したのはその直後です。僕には、その時の渡辺の顔の変化こそ、接待の神髄のように思えました。傲岸不遜の武芸者のような顔が、吉岡を迎えた瞬間、吉原の太古持ちのそれに変貌したからです。顔はくしゃくしゃになり、へつらいの笑みが顔全体に広がっていました。僕たちを迎えたときの顔とは大違いです。
 さて、吉岡技官ですが、前もって僕たちの同席は聞かされていたようですが、やはり不安そうな色を滲ませます。接待の情報が漏れるのを恐れている眼です。が、渡辺は、それと気づき、つかさず吉岡に声を掛けます。
「吉岡技官、申し訳ございません。甥っ子、この優男ですが、こいつがどうしても吉岡技官を紹介しろってきかないもんなんで、今日は同席させました。今後とも贔屓にしてやって下さい。それと隣のデブ(当時は確かにデブでした)が甥っ子の上司です。」
と言って、僕らを紹介します。頭を下げる僕たちの媚びるような目線にようやく安堵した吉岡が、仲居に促され隣室で着替える間に、渡辺が僕らを呼び寄せ小声で指示します。
「いいか、最初が肝心だ。どれだけ気に入られるか、お前たちの腕次第だ。乾杯のビールの後、まずはお前が行け!」
「はっ?」
と僕。
 一瞬、意味が分からずポカンとすると、
「アホかー、お前。お酌して、お流れを受ける。それと、短めでもインパクトのある自己紹介。ヤクザみたいに仁義を切ってもいいんだ。受けると思えば何でもやれ! それが営業だ」
 激を飛ばされ、焦って頭は真っ白に。何を言ったか覚えていませんが、ありきたりな挨拶だったかもしれません。とにかく、その日は、何を言っても受けなかったことだけは覚えていますので。

 料理が運ばれ酒宴が始まりました。飲むほどに二人の話は弾みますが、殆ど女の話で、とっかえっこした女の下半身の形状だとか、喘ぎ声が男みたいなだみ声の女とか、女が酔っぱらいすぎてオネショした話とか、二人は思い出しては大声で笑ったり、相手の話を補完したりして盛り上がります。殆ど共有体験ばかりです!?。
 聞いてる僕にとって少しも共感出来るものではなかったのですが、ここぞとばかり大笑いしてみせて話に加わり、相槌を打ちまくりました。とは言え、渡辺にとっては、僕たちの対応は営業マンとして最低だったようです。
 携帯が鳴って、吉岡技官が部屋の外に出た瞬間、渡辺の雷が落ちました。大変な剣幕でこう怒鳴られたのです。
「お前ら、いい年こいて、お○○こ話の一つも出来ないのか?それでも営業マンか?」
「えらいすんません。次、頑張ります。(トホホ)」

 次の展開も、意外でした。小一時間して、妙齢な夫人が宴会に加わったのです。初顔合わせの僕らにも、「新藤かおる(仮名)」という名前だけの名刺を差し出し、にこっと笑ってご挨拶しておりました。
 年の頃は、30代後半、品のいい顔立ちで、その手の女性とも思えません。ベージュのパンツスーツ、襟の開いた白のブラウスからこぼれる膨らみが目を引きました。妙に堂々としていて、渡辺や吉岡に敬語を使ってはいますが、手玉にとっているといった感じです。まさに謎めいた女でした。
 これが今日のお相手? 確かに、彼女は吉岡技官にしなだれかかるようにして話しかけていますし、その手は技官の根本近くの太股を撫でながら行ったり来たりしています。僕は、おいおい、露骨すぎだぞ、とちらちら盗み見みしていました。
 しばらくして、新藤が、何度も腕時計に視線を走らせます。吉岡技官も渡辺も、互いに目配せし、そろそろ宴会も潮時だという雰囲気です。新藤が立ち上がり、渡辺に何か耳打ちしています。渡辺の視線が僕らに注がれ、
「おい、お前らはどうするんだ? やるのか、どうすんだ? あと二人頼むんなら、新藤さんが何とかするそうだ」
と言のです。僕は慌てて手を横に振りますが、慌てすぎて声も出ません。石川と言えば、
「えー、いいんですか?」
などとすっかりその気になって鼻の下を長くしています。新藤かおるが僕の方を見て、どうするの? と目をくりくりさせて答えを促します。僕はようやく口を開き、渡辺・吉岡両名に、今日のお礼を述べるとともに、お暇すると答え、石川を置き去りにしたのです。

 さて、最後の最後で、新藤かおるの正体が分かりました。売春の派遣コーディネーター、これが謎めいた彼女の裏の顔だったのです。何故、ASKA逮捕の記事を読んで、この出来事を思い出したか、お分かり頂けたでしょうか? 勿論これは想像にすぎませんが・・・。(日刊ゲンダイの記事を下に掲載しておきます。) 
 企業が公共発注を受注するために、官僚や政治家をセックスで供応することは、日常的に行われていますが、表にでることはありません。せいぜい噂にのぼる程度ですが、僕のこの体験を皆様に披露することにより、その実態を実感して頂ければと思い、筆を取った次第です。
 でも、もし、クスリがこれに加わったとしたら? いやはや、世も末ですね。

日刊ゲンダイより
『「南部代表は、パソナの迎賓館『仁風林』で頻繁にパーティーを開催していた。“接待秘書”は政財界、芸能関係者のVIPたちをおもてなしするのです。ASKAと栩内が出会ったのも南部代表主催のパーティーでした」』
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